セールス

絶対売れるセールストークは悪魔か天使か

究極のセールストーク

「神の啓示でも降りてきたんすかね」

その時の状況をそのように語った中堅セールスマンみさおは天井を見て笑っていた。

営業の仕事についてまる5年が過ぎようとしていたこと、会社が最も得意とするビタミン製剤のカテゴリーに超大型新製品が登場した。会社は久しぶりの製品に社運をかけていると声を荒げる。

セールスマンみさおは、全体会議で隣りに座った先輩に

「今年にはいって、いくつめだとおもってんすかね。社運かけ過ぎやっちゅうねん」

と、今年にはいって5個目の大型新製品にあきれぎみに毒ついた。実際、社運をかけている商品はでまくっているが、もし本当に社運をかけているなら、もうとっくに会社は倒産している。発売された新製品が本当にすごくて売れまくっていたら、会社の業績はすごいことになっている。

そうは問屋はおろさないってことだ。

そんな感じだから、会社が、大型だよ、凄いよっていったって、セールスたちはなれきっていて、力いれてるのはわかったから、とっとと発表して、どうせ売らなきゃならないのだから。

どうせ売らなきゃってのは、もうセールスの本能に近いものだと言っていい。その製品がよかろうが悪かろうが、メーカーに所属するセールスである以上、会社が売れって言うものは売らないといけない。

それが社運をかけているという商品ならなおさら。売らない人間は反逆分子ととられかねない。そういうのもあってか、いちいち社運かけるなよ、売らなきゃなんねえじゃねえかという空気がただよう。それをうけてのセールスマンみさおの発言なのだ。

「みなさま、お待たせしました。9月発売の新製品はこれです」

と企画部門のプレゼンターがプロジェクターに新製品を映しだした。

おおおーーー、という声はあがらなかった。そのかわりに、ざわざわしている、耳を傾けてみると、おいおい、これが大型かよ、箱がでかいだけじゃないのとか、これに社運かけて大丈夫という感じだった。

悪態をつくのが三度の飯より好きなセールスマンみさお。当然同じように今度は左隣にとなっている後輩をつかめて悪態をつくかと思ったが、違った。

身をのりだし、プロジェクターが映しだされているスクリーンに釘付けになった。

そして、俺、これ売らなきゃと、小さな声でつぶやいた。

「いやあ、まったく覚えてないです。なぜそう思ったのか。実際にパッケージを見たとき、それほどすごいと思わなかったし、成分的にも画期的といえるほどでもなかった。会社が社運をかけていると言ってはいたものの、その熱の入れ具合は、マックスではなかった。でもなんか、知らないけど、これ売らなきゃと思ったのですね」

その商品を全国一売ったということで企画室からうけたインタビューに答えて、セールスマンみさおは答えた。そして、冒頭のことば、神の啓示が降りてきたんすかね、で締めたのだ。

完璧に構築されたセールストーク

神の啓示を受けたかのように、それを売りまくらないといけないと思ったセールスマンみさおは、全体の会議のあと、早速学術部に顔をだし、より詳しい話を聞いた。

商品を売るなら、その商品のことを完璧に知っている必要があり、クライアントから、どんな質問がきても、即座にこたえられるようになっていないと、商品なんか売れないからなと、誰に言われたかは忘れたが、ありがたい言葉としてそれを信念のひとつとしていたみさおは売るにあたって、徹底した。

商品のことをしったあとは、セールストークの構築だ。
セールストーク
この商品がでた経緯と、売らなければいけない理由。どういった商品であり、どういう人に買って貰う必要があり、ごまんとある競合品との違いを説明し、ベネフィットを説明し、クライアントがこれを買うメリットを付け加え、クロージングにもっていく。

それをどのような順番ではなし、予想される反駁があったときにどうきりかえすかを徹底的にシュミレーションし、資料をつくり、出す順番を決め、セールススクリプトと言われる脚本を書き、ロールプレイングを繰り返し、本番に向けて準備をした。

「なんで、そんなに売りまくったかですか。うーん、神がかってたとしかいいようがありませんね。今からもう一回売ってこいって言われてもむりですねえ、もう憑いてたものがおちちゃいました」

その時のことを振り返りみさおはおどけながら答えた

5打数5安打

セールスマンみさおは、必ず試し打ちをする。

新製品を絶対に買わないということで評判のクライアントから訪問する。規模が小さい、万が一そこで失敗しても大勢に影響がない店を選んで、試験的に試すのだ。

実はこのやりかたはあまりおすすめされない。

一発目はとりやすい、いつも新製品を買ってくれるところから回るのが王道だ。いきなりことわられては、自信の喪失につながるからだ。だから、普通は、自信をつけるためにも、買ってくれる店から回る。

しかしみさおは逆を行く。

絶対に買わない店は、買わない理由をごまんといってくる。やれパッケージがださいやら、販売価格が高いやら、条件がよくないやら、どこどこの商品と同じだとか。

それをみさおは仕入れにいくのだ。一発目で、すべての反駁をとれる可能性があるから、効率がよいと考えるからだ。

それともう一点ある。いつもとれる店も100%とれるとは限らない。この店は大丈夫だろうと思う店で断られるとそれは、自信の喪失を意味する。それはショックであり、あとの営業活動に大きな支障がでる。

この大型新製品、簡単には売れないぞと思ったセールスマンみさおは、どうせならと難しいところからはいったのだ。

驚きの展開

完全にシュミレーションし、ロールプレイを何度も繰り返したものの、本番は緊張するし、上手くはなせない。そんなことを重々承知の上のぞんだのだが、想像をくつがえし、見事なまでにスムースにはなせた。

なんだこれはと思いながらはなしていると、当然のごとく、やれここがよくない、これがいらない、もっと安くしろとクライアントから声がでる。

想定内の反駁もあるが、おお、そこをつくかというのもあり、やはりこの店舗を一店目に選んだことは正解だったと思いながら話をクロージングに持っていく。

話始めたらしめるのは当然なので、どうせ無理と思いながら、早々に話をしめ、帰ろうとするとクライアントから

「わかった、1セットおいていき」

という声がでた。

「えっ?」

みさおは思わず声をだした。だした提案書をひきあげ、かばんにしまおうとおもっていた。あわててとりだし判子をついてもらう。

「なんや、あんた、わたしがこうたらあかんのか」

いやいや、と慌てて否定したみさおは、提案書に契約印をいただき、おどろきのまま店をあとにした。おいおい、これ、いけるかも。

神がかっていたセールストーク

絶対に新製品を買わない店が商品を購入したことで、大きな自信を得たみさおは、最終的には、この商品を全国で一番売ったことになった。

結論を書くと、この商品を売るためのセールススクリプトが完璧で、セールストークもクロージングまでスムーズに流れるものが完成されていたので売れたのだ。

あまりに売るということで、本社から同行取材がきた。上司もこぞってみさおと同行した。そして、同行を終えた人たちは、それぞれが一様に、

「これは売れるわ」

と口にしたという。百戦錬磨のセールスが、その商談をまのあたりにして、そういうのだから、それはそれはすばらしいものだったに違いない。

売れたのはみさおだけだった

蓋を開けてみれば、この社運をかけた商品は売れなかった。爆発的に売ったのは数人のセールスだけで、プロモーションてきには大失敗だったのだ。

それでもみさおは、ここ最近の新製品の中ではもっとも売った。彼にとっては神的な商品だったのだ。

ここにセールスの秘密が隠されている。商品が売れるのは、必ずしも商品がいいということではないということなのだ。この商品を、なぜか知らないが、売らなきゃと思ったみさおは、商品について徹底的に調べた。そして、そうしているうちに商品を好きになった、愛してしまった。

このようなすばらしい商品は、絶対に売らなきゃと本気で思った。なので、徹底的にスクリプトをつくりセールスを磨いた。

操作が含まれていたセールストーク

ねっからのセールスであるみさおがスクリプトをつくるとき、当然そこには、あいての心を動かすような、心理的なテクニックが含まれている。そういうのは、先方に気づかれるケースが多い。いわゆる操作系のセールスなのだが、今回については、それを情熱や思いが隠す形となった。

この商品が本気でいいと思い込み、こんなにすばらしい商品をうらなければという思いが、百難を、いや操作系を完全にかくしたのだ。

ここにセールスの真髄がある。

操作系は、商品を買ってもらうには極めて有効なテクニックだ。ところが、それをクライアントやお客さんが気づいたり、感じたりすれば、それはむりやり売られた感がどうしたって残る。

商品がよほどよければいいが、そうでなければ、そこには不信感しか残らない。そんな人から、もういちど買いたいと思うかということだ。

ところが、世の中のセールスの教本には、この心理系の、操作系のことばっかり書いてある。そんな小手先のテクニックは、長い目でみたら、あなたに、そして会社に損失しかもたらさないのである。

今回のみさおのストーリーが、なにかのお役にたてればさいわいである。

操作はできればしないほうがいい。ところがものを売るには抜群の効果を発揮する操作系。もしやるなら、絶対にわからないようにする必要がある、そういうことだと思う。

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